「画家の生活」No3
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※「夢が見つからない」そんな悩みを持っている人に読んでもらいたいエッセイ。
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※作品の発表や解説をお届けします。
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画家の生活 No3
運命が向こうからやって来た?
崩壊寸前の家庭。夢と現実のギャップ。
出来る出来ないは別にして絵描きになるという事が理想的だと思えた。
そうすればいつも家にいれる。
でもどうすれば絵描きになれるんだろう。
デザインの仕事はしているが絵を描く事とは全く違う。
そもそも絵らしい絵を描いた事が無い。
僕は小中学校のクラブ選択で美術部を希望したが叶えられなかった。
それなら美術大学へ行く?のも嫌だし無理だし。
だいたい28歳という年齢でゼロから始めて絵で食べて行けるのだろうか。
妻子もいるわけだし。
一人前になるまで何年かかるのだろう。
頭の中で色々考え始めた。
現実的な話としてフリーのデザイナーになるのが良いだろう。
デザイナーをやりながら絵の勉強をすればいい。
問題は絵で一人前になるまでの時間だ。
5年か?10年か?
時間の事を考えているとこんな考えが浮かんだ。
「サラリーマンが60歳の定年まで働くのなら、80歳まで働けばブレイクするのに20年かかっても差し引き働く時間は同じだ!」
変な理屈だが、そう考えると気分的に楽になり20年の時間が出来た気がした。
まぁ、20年もあれば何とかなるだろう。
自分的には2~3年。イメージではそんな感じだ。
でもどうやって絵描きになればいいんだ?するとすぐ閃いた。
「個展をやればいいんだ!」
デザイナーだった僕はまずイラストレーターになる事を考えた。
当時花形の職業でもあり、実際イラストレーターには憧れていた。
よし、イラストレーターに転身しよう。
そんな事を考えていた時ちょっとした大事件が起こった。
ダイエットに成功した数日後、社長が僕の所に直接やってきてとある大企業の社内報の表紙のプレゼンを頼まれた。
社長とは普段から仲が良かったが、直々に僕の所に来て仕事の依頼をするのは初めてだったから気合を入れて奇抜なデザインを仕上げた。
そして後日クライアントにデザインのプレゼンテーションをしている時だった。
僕はクライアントの前で手振り身振りを交えて面白おかしくプレゼンをしていた。
なにせやったデザインが奇抜だったから担当者の気持ちを軽くしたかった。
「やっちゃうか~~♪」なんて気軽な言葉を引き出したかった。
担当者もその気になって来た時、「どう思います?」同席していた僕の上司の部長に意見を聞いて来た。
「いいと思いますよ」そう言ってくれると思ったらなんと部長は
「若い連中のやる事は解りませんね~」と言った。
ダメでしょ。味方しなくっちゃ。
ぶち切れた。
プレゼンが終わって外に出ると部長にかみついた。
「俺はクライアントの見方だから」違うでよ。見方は僕でしょ。
ぶち切れた僕は社に戻ると社長室に直行し、事のいきさつをまくしたててその勢いで
「部長をクビにしてください!それがダメなら僕をクビにしてください!!」
ダーンとやらかした。
そして当然僕がクビになり、3ヶ月後に僕は会社を退職する事になった。
絵描きになると決意したら期せずしてその通りになった。
なってしまった。
会社を辞める事になった。絵描きになるしかない。
でも家内には何と言ったら良いだろうか。
夕食の時探りを入れてみた。
「最近会社でイラスト頼まれる事が多くてさ」(ウソだ)
「へ~そうなんだ」
「去年小さなイラストのカットやったら何かと頼んでくる様になって」(ウソだ)
「器用だもんね」
「それがけっこう評判でさ。外のイラストレーターよりいいって」(ウソだ)
「ふ~ん、そうなんだ」
「先週なんかデザインの仕事よりイラスト描いてる時間の方が多かったんだぜ~」(ウソだ)
「へ~、すごいね」
「今度試しに個展でもやってみようかな~」(ホントだ)
「え~~」
「冗談、冗談、ははは」(ウソだ)
まず種をまき始めた。
いきなり「会社をクビになりました」なんてとても言えない。
言えるわけがない。
これは後でわかるのだが、このクビはタイミング的に幸運な出来事だった。
なぜならこの2年後バブルが崩壊したのだ。
世の中のデザイン会社は倒産の嵐。
僕が勤めていた会社も崩壊した。
100名以上いたほぼ全員退社を余儀なくされた。
転職しようにも世の中の広告業界は大不景気。
多分僕がまだその会社にいたらフリーランスの絵描きにもは転職出来なかったろう。
しかし僕はその2年間で足場を固めることが出来たからラッキーだった。
人生何が幸運か不幸かはその時起きた事象だけでは分からない。
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エッセイの感想はメールで下記まで
meruma@washiro.com
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作者 和代人平(わしろじんぺい)65歳 画家、パフォーマンスアーティスト。
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お問い合わせメール meruma@washiro.com
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